阪大物理'25年前期[2]

ある振動数νと強さIをもつ光を金属試料に照射し、光電効果により発生する光電子の運動について考察する。図1のように、真空中に装置を置き、原点をOとする直交座標系xyzを設定する。まず、微小な穴をもつ電極と金属試料をz軸に直交するように配置し、電極に対して金属材料に電圧Vを与える回路を設ける。この回路には、一様な抵抗線の間に端子,およびが接続されている。端子の位置は固定されており、端子の接続位置を変えることにより、電圧Vを設定したい値に調整することができる。
次に、微小な穴をもつ電極
z軸に直交するように配置し、電極に対して電圧()を加える。電極に設けられた微小な穴の中心は、z軸上に配置されている。z軸方向の長さがで、2枚の平行な電極の間には、強さEの一様な電場(電界)x軸の負の向きにかかっている。ソレノイド内にはz軸の正の向きに一様な磁場(磁界)があり、その磁束密度の大きさはBである。観測者は、z軸上において、z軸の負の向きを向いている。また、電子がもつ電気量と質量をそれぞれ(eは電気素量)m,プランク定数をhとする。
ただし、以下の問では、金属試料に照射する光の振動数
νまたは強さIのいずれかを変更する場合、他方は変わらないものとする。金属試料と電極の間、電極の間、および、電極の間以外の場所には電場は無いものとする。また、電極の材質は常に金属試料と同じものを用いる。さらに、電極間を通過した電子は、その瞬間にソレノイドに入るものとする。電極間の間隔、および、ソレノイドの直径は十分に大きく、進行中の電子がこれらに衝突することはない。簡単のため、ソレノイド外部の磁場は無視でき、また、ソレノイドは十分に長いものとする。なお、光電子は質点として扱い、量子的な波動性は無視でき、その運動は重力の影響を受けないものとする。

T.仕事関数をもつ金属試料(金属試料1とする)に光を照射した。端子の接続位置が一致する場合には、試料表面から光電子が飛び出した。次に端子の位置を変え、電圧Vを徐々に大きくすると、電極に到達する光電子の数は減少し、においてその数は0になった。

1 このとき、端子の接続位置は、図1における()間、もしくは()間のどちらの範囲内で調整したか、()または()の記号で答えよ。

2 仕事関数νehを用いて表せ。

よりもわずかに小さい電圧Vにおいて、電極に到達した電子の一部が穴を通過した。そして、電極の穴も通り抜けて、z軸の正の向きに進んだ。ただし、電極での電子の初速度は無視できるものとする。

3 電極の穴を通過した瞬間の電子の速さemを用いて表せ。

4 問3の電子が電極間を通過し、ソレノイドに入った瞬間の速度のx成分を、emEを用いて表せ。

5 z軸上の観測者からは、ソレノイド内を進行する電子が等速円運動しているように見える。この円運動の角速度をemBを用いて表せ。

U.次に、金属試料1を金属試料2に交換した。金属試料2の仕事関数よりもw()だけ小さく、の関係がある。電極と金属試料2の間の電圧がになるように、端子の接続位置を調整し、金属試料2に光を照射して光電子を発生させた。このとき、z軸の正の向きに進行し、電極の穴を通過して瞬間の電子の初速度の大きさは、照射する光の強さIによらず、0からの範囲内で連続的に分布した。

6 電極の穴を通過する電子がもちうる最大の初速度の大きさmwを用いて表せ。

以下では、となる金属試料2を用いる場合を考える。

7 問6で求めた最大の初速度の大きさをもつ電子が電極間と電極間を通過し、ソレノイド内を進行した。z軸上の観測者がこの電子を持た場合の等速円運動の半径は、問5における等速円運動の半径の何倍になるか、答えよ。

8 十分に長い時間、金属試料2に光を照射した。その間に発生し、z軸の正向きに進行するすべての電子について考える。ソレノイド内を進行する電子の軌跡をxy平面上に投影した図(投影図)は、観測者にどのように見えるか。図2()()の中から最も適切なものを選んで記号で答えよ。ただし、()()では電子の軌跡が投影される場所を黒色または灰色で表示している。また、()()における円Cは、金属試料1を用いた場合の投影図(2中の参考図)を表すものとする。

9 問8の状況において、ソレノイド内を進行するある1つの電子について考える。その電子のxy平面上の投影図における円の中心座標をとする。座標X,座標Yの間には、観測するすべての電子において同じ関係式が成り立つ。座標YemBEXのうち必要なものを用いて表せ。

10 問8の状況において、以下の()()の中のいずれか1つの操作を行ったところ、金属試料1を用いた場合の円Cのみの投影図(2中の参考図)と同じ投影図が得られた。これが可能となる操作を()()の中からすべて選んで記号で答えよ。
() ν(照射する光の振動数)を変更する操作
() I (照射する光の強さ)うぃ変更する操作
() 端子の接続位置を変更する操作
() (電極に対するの電圧)の範囲で変更する操作
() E(電極間の電場の強さ)を変更する操作
() (電極z軸方向の長さ)を変更する操作
() B(ソレノイド内の磁束密度の大きさ)を変更する操作



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解答 光電効果の理解を問う問題で、第1問同様、この問題も、難問とは言えませんが、やることが多く、完答は厳しいと思います。

T.問1 金属試料から負電荷を有する電子を飛び出しにくくするので、電極の電位が金属試料の電位よりも低くなるように、電極と接続されている端子の電位が端子の電位よりも低くなるように設定する(の方がよりも高電位)ので、() ......[]

2 は阻止電圧なので、 ∴ ......[]

3 Vよりも僅かに大きい電圧なので、電極でほぼ静止していた電子が、電極間の電圧で加速されます。電極での初速度を無視するので、電極を通過した瞬間の電子の運動エネルギーは、
 ∴ ......[]

4 電子は、電極間にz方向の初速度で侵入し、z方向には力を受けず等速度運動するので、電極間を通過する時間はです。
電子はx軸正方向に大きさの力を受けるので、電子のx軸方向の運動方程式は、電子の加速度をaとして、
 ∴
時間後の速度のx成分(等加速度運動を参照)
......[]

5 観測者から見て、z軸正方向、磁束密度Bの磁場中に速さx軸正方向に侵入した電子に働くローレンツ力の大きさは,力の向きはフレミング左手の法則よりy軸正方向です。ローレンツ力は、電子の速度に対してつねに垂直な方向に働くので、電子は等速円運動するように見えます。
等速円運動の加速度は、円運動の半径をrとしてなので、運動方程式は、
 ∴  ・・・@
円運動の角速度ωは、 ......[]

U.問6 電子がエネルギーの光子から受け取るエネルギー、即ち、電子が持ちうる最大の運動エネルギーは、問2と同様に、
 ∴ ......[]

7 電極通過時の電子のエネルギーの最大値は,電極通過時の電子の速さの最大値をとしてエネルギーの最大値は,この間に電子は電場から仕事を受ける(電位・電圧を参照)ので、
6の結果より、

のときには、
 ・・・A
このとき、電極間通過後の速度のx成分は、問4と同様に、
磁場中の等速円運動(観測者から見た)の半径は、@と同様に、
 ・・・B
4の結果と@より、 ・・・C
B,Cより、
3の結果とAより、
  ......[]

8 電極を通過する速さが最も小さくほぼ0である電子(よりも僅かに小さい電圧Vにおいて電極に到達した電子)は、問3の結果より、電極を通過時の速さで、この電子が磁場中に侵入した時、観測者から見て円運動の半径rは、Cよりです。このときの電子の円運動の状況は、図2の参考図に描かれています。
観測者から見て、この電子が磁場に侵入する位置のx座標は、問4より、
 ・・・D
z軸正の向きに進行するすべての電子は、よりも大きな速さで電極を通過し、上記より、円運動の半径rと磁場に侵入する位置のx座標は、図2の参考図の場合よりも小さくなります。磁場に侵入し円運動を開始する位置のy座標はであることに注意すると、観測者に見える投影図は、y軸に接しつつ、接点のx座標が次第に小さくなり円の半径が小さくなるときに円の内部が通過する領域である、() ......[]

9 円の中心をとして、Dより,またCより
両者よりを消去して、
 ∴ ......[]

10 ()は振動数の変更により、金属試料と電極間の電圧を操作するのと同等の効果が得られ、参考図の状況を実現できます。
()では、照射する光子の数が変化するだけであり、参考図の状況を実現できません。
()端子の接続位置を変更すれば、金属試料と電極間の電圧を操作でき、参考図の状況を実現できます。
()の範囲で変更しても、電極通過時の電子の速さを変えることができる(投影図が参考図から下に動き円の半径が小さくなる)だけであり、参考図の状況を実現できません。
()E2通りの値 ()に対し、Cの円運動の半径rが同一の値だったとすると、より、よりとなります。
()2通りの値 ()に対し、Cの円運動の半径rが同一の値だったとすると、より、よりとなります。
()B2通りの値 ()に対し、Cの円運動の半径rが同一の値だったとすると、より、となります。
であってもであっても、磁場に侵入した時点で、電子の速度のx成分は0で、観測者から見て磁場中で電子は円運動せず、()()()では、参考図の状況を実現できません。
よって、参考図の状況が可能な操作は、
()() ......[]



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なお、解答は、
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