阪大物理'25年前期[3]

以下のABの両方の問題に解答せよ。なおABは独立した内容の問題である。

A.屈折率(絶対屈折率)()で一定と見なせる2枚のガラス平板の間に薄膜をはさみ、光の干渉を観察することを考える。ただし、ガラス平板は力を加えても変形せず、厚さも屈折率も変化しないものとする。ガラス平板の厚さは一定で十分に厚いとみなしてよく、上側ガラス平板の上面と下側ガラス平板の下面からの反射光の影響、ガラス平板にかかる重力の影響は無視できるものとする。また、薄膜の厚みは常に一様であり、空気の屈折率は1とする。以下では、すべての屈折率は光の波長に依存しないものとする。

T.図1のように、空気中で2枚のガラス平板を重ね、一端に薄膜をはさんだ状態で水平な床の上に置いた。このときの薄膜の厚さはであった。その後、床に対して真上から波長の単色光を当て、真上から観察した。すると、ガラス平板の間にできるくさび形の空気層の下面で反射する光aと空気層の上面で反射する光bが干渉して、明暗のしま模様が観察された。下側ガラス平板の上面に沿ってx軸をとり、上下のガラス平板が接する左端位置を原点Oとする。原点Oから薄膜の左端までの距離Lは、薄膜の厚さに比べて十分に大きいとする。

1 位置()における、光abの経路差の絶対値を、Lを用いて表せ。

2 観察されたしま模様の隣り合う明線の間隔をとする。このときの薄膜の厚さを、Lを用いて表せ。

次に、2枚のガラス平板の間にできるくさび形の空間を屈折率n()の媒質で満たした。このとき、薄膜の厚さはのままであった。この状態で、先ほどと同様に真上から波長の単色光を当て、光abの干渉によるしま模様を観察した。すると、しま模様の明線の間隔は、問2の状態から変化した。
さらに、ガラス平板ではさんだ薄膜に力を加えることで、薄膜の厚さが変化する場合を考える。この薄膜は、上から力
Fを加えることによりの法則に従って、全体の厚さが一様にXだけ縮むとする。ただし、kは薄膜の特性を表す正の定数である。
2のように、2枚のガラス平板の間を屈折率nの媒質で満たしたまま、右端にはさんだ薄膜に力をかけて厚さをだけ減少させた。この状態で、光abの干渉によるしま模様を観測したところ、明線の間隔が、問2の場合と同じになった。ただし、屈折率nは変化しない定数であり、上下のガラス平板の接する位置は原点Oから動かず、薄膜と2枚のガラス平板は常に接しているとする。

3 このとき、定数kを、nを用いて表せ。

U.図3のように、両端に同じ薄膜をはさんだ2枚の平行なガラス平板を水平な床の上に置いた。この状態で、ガラス平板の真上から白色光を当てた。以下では、2枚のガラス平板の間にはさまれた空気層の下面で反射する光aと、空気層の上面で反射する光bの干渉により強め合う光について考える。ガラス平板をのせた状態で、両端の薄膜の厚さはであった。このとき、波長の可視光が干渉により強められた。ただし、可視光の波長範囲をとし、白色光は可視光の波長をすべて含むものとする。

4 波長は何mか、有効数字2桁で求めよ。

この状態から、上側ガラス平板の上面に一様な力を徐々に加え、両端の薄膜の厚さを一様に小さくすることで、2枚のガラス平板を平行に保ちつつ空気層の厚さをゆっくりと変化させた。すると、干渉により強め合う光の波長がから連続的に変化し、薄膜の厚さがより小さくなったところで強め合う光の波長が可視光の波長範囲から外れた。さらに力を徐々に大きくして厚さを変化させたところ、薄膜の厚さがより小さくなったときに、再び強め合う光の波長が可視光の波長範囲に入った。

5 厚さは何mか、それぞれ有効数字2桁で求めよ。


B.重陽子()とベリリウム()の核反応
および
を用いて中性子()を発生させることを考える。最初は静止しており、静電気力が無視できるほど十分に遠方から、加速したに正面衝突させた。
電気素量はとする。必要ならば、図
1に示した核子1個あたりの結合エネルギーと質量数の関係を用いよ。以下では、原子核および中性子はの速さは真空中での光の速さに比べて十分に小さく、核反応は真空中で起こるものとする。原子核および中性子は質点として扱い、量子的な波動性は無視できる。また、重力の影響は無視できるものとする。

T.電子1個が1Vの電位差で加速されたときに得る運動エネルギーは1eVである。核反応で放出される核エネルギーを表すには、MeV()という単位を用いるとわかりやすい。

6 1MeVは何Jか、有効数字2桁で求めよ。

7 核反応で放出される核エネルギーは何MeVか。以下の()()の中から最も近いものを選んで記号で答えよ。
()  ()  ()  ()
(
)  ()  ()  ()
(
) ()

U.原子核Xと原子核Yx軸上で正面衝突し、核反応を起こして、中性子と原子核Zに変化した。その後、中性子と原子核Zx軸上を運動した。最初、原子核Yx軸上の原点に静止しており、原子核Xは静電気力を無視できるほど十分に原子核Yから離れた状態で、運動エネルギーをもっていた。この核反応で放出される核エネルギーをQとする。の場合は、のエネルギーを外部から与えなければこの核反応は起こらない。の場合には、この核反応による全核エネルギーの変化はない。

8 以下の文章のに入るべき式や記号を、それぞれの{ }の中に与えられた文字や記号のうち必要なものを用いて表せ。

原子核Xの質量を,中性子の質量を,速度を,原子核Zの質量をとすると、原子核Zの速度は、
 (1)
と表せる。また、衝突後の全運動エネルギーがであることを用いると、核エネルギーも含めたエネルギー保存則より、衝突の前と後の全エネルギーが満たす関係は
 (2)
となる。式(1)と式(2)より、この核反応が起こるためにが満たすべき条件は
 (3)
となる。

一方で、原子核
Xと原子核Yは共に正の電荷を持つので、核反応が起こるためには静電気力に逆らって両者が十分に接近する必要もある。このために必要な運動エネルギーの最小値をとする。
条件式
(3)と条件の両方が満たされたとき、またそのときに限り必ず核反応は起こるものとして以下の問に答えよ。

9 核反応が起こり、中性子が発生した場合について考える。この核反応における1.00MeVとする。核反応が起こる前に、静電気力が無視できる十分にから離れた場所で、が持っていた運動エネルギーを[MeV]とする。この核反応を起こすことができる運動エネルギーとしてあてはまるものを、以下の()()の中からすべて選んで記号で答えよ。必要ならば、の質量がそれぞれ1.01u1.01u9.01u9.01uであることを用いてもよい。

()  ()  ()
(
)  ()  ()



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解答 A.はくさび形空間による光の干渉の問題、B.は核反応の問題です。問8()は、核反応を起こすための条件が何なのかがなかなか分からず悩みます。

A.以降で、光bはガラスから空気中に入ろうとして起こる反射なので自由端の反射で、この反射では位相は変わりません(波の反射を参照)
aは空気中からガラスに入ろうとして起こる反射なので固定端の反射で、この反射で位相が反転します。
よって、光
aと光bの干渉では強め合う条件と弱めあう条件が逆になります。 ・・・()

T.問1 2枚のガラス平板のなす角をθとすると、
における光aと光bの経路差の絶対値は、 ......[]

2 m番目の明線位置の経路差はであり、()より、明線条件は、mを自然数として(光の干渉を参照) ・・・@
この明線の次の明線では、 ・・・A
A−@より、
よって明線間隔は、
......[]

3 くさび形空間を屈折率nの媒質で満たしたときのm番目の明線位置の光路差はであり、()より、明線条件は、mを自然数として、 ・・・B
この明線の次の明線では、 ・・・C
明線間隔をとして、C−Bより、
薄膜に力をかけて厚さをだけ減少させたときの膜厚は,このときの明線間隔が問
2に等しいとして、

 ∴
より、
......[]

U.問4 膜厚がのときの光aと光bとの経路差は
mを自然数として、()より、光aと光bが強め合う条件は、
 ・・・D
これが可視光領域に入る条件は、
これを満たす自然数mのみで、このとき、
......[]

5 Dでmを変えずに膜厚を小さくしていくと強め合う光の波長は小さくなります。膜厚になると強め合う光の波長が可視光の下限に一致するので、
 ∴ ......[]
このまま膜厚を小さくして膜厚がになったとき強め合う光の波長が可視光の上限に一致するのですが、膜厚が小さくなるのに伴って、mの値がDよりも1小さくなることに注意すると、
 ∴ ......[]

B.エネルギーの単位、核反応、結合エネルギーについては、原子核を参照してください。
T.問6 
......[]

7 図1を見ると、の核子1個あたりの結合エネルギーは、ほぼ、1.1MeV6.5MeV6.5MeVなので、(核子2)(核子9)(核子10)の結合エネルギーは、2.2MeV58.5MeV65MeVです(は単独で存在しているので結合エネルギーはありません)
合わせて60.7MeVなので、核反応で放出される核エネルギーは、
です(結合エネルギーは数値が大きいほど低いエネルギーであることに注意)。 () ......[]

8 運動エネルギーを持つ原子核Xの速度は、より、,よって原子核Xの運動量は
核反応前後の運動量保存より、
......[] ・・・(1)
核エネルギーも含めたエネルギー保存則より、

 ・・・(2)
......[
]
(1)(2)に代入し、を消去すると、
をかけて整理すると、
をかけて、
は実数なので、2次方程式は実数解をもち、判別式Dについて、


ここで、原子核Yの質量をとして、であり、より、核反応が起こるためには、
......[]  ......[]

9 の質量がそれぞれ1.01u1.01u9.01u9.01uであれば、この核反応では、ほぼ質量欠損はなくなのですが、図1を見ると、の間には、核子1個あたりの結合エネルギーにほぼ0.2MeVの違いがあり、の方が結合エネルギーが小さく、のエネルギーの方がだけ高くなります。の結合エネルギーが等しいと見ると、核反応ではで、以上のエネルギーを加えないと反応が起こりません。このときは満たされています。よって、核反応を起こすことのできる運動エネルギーは、()()()() ......[]



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各問題の著作権は
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なお、解答は、
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